「 脱 水 」

- 1 -
この世の光をはじめてあびた日。
あなたは誰より喜んでくれました。
わたしがはじめて立った時、
あなたは誰より喜んでくれました。
わたしが話せば あなたは喜び
わたしがうたえば あなたは喜び
だれかがわたしを「かわいい」と言うと、
あなたはまるで、自分のことのように喜んでくれました。
1番をとる度に、
ハナマルをもらう度に、
あなたはまるで、自分のことのように喜んでくれました。


あなたからの失望。
それは、わたしにとっては死の宣告。


「いいわけ」という仲間をみつけ、
ずる賢さをも味方にしました。


わたしは汚い。


他人には刃を向け、
ブラックホールに篭城し、
湿気と友だちになりました。
この世界に生きること、
「わたし」という器に留まることを、
放棄した。

所詮、仮の器。
所詮、一時しのぎの場。

わたしのいるべき世界、
生きる世界は他にある。


これがわたし。

「これが  わたしの  すべてだ。」




- 2 -
ここにくれば、何かがあると思っていた。
ここにくれば、何かがつかめる気がしていた。
 
ここでもない。
ここにも、わたしの居場所はない。
 
外に、外に、目を向ける。
遠く、遠く、わたしの生きる場所。はるか遠く。
 
 
虚空をつかむ。
虚空でしかない。
 
 
息をすって、息をはく。
捕らわれた空気は、
鼻をつんとさせ、目の奥を刺激し、そのまま脳天に直撃する。
酔ったような感覚。頭痛と吐き気。
 
 
吐きたい。
吐けない。
 
 
確かに「ここ」に生きているという実感。
「確かにここに生きている」
ということへの、気持ちの悪さと自己嫌悪。
 
 
芝生の上。横たわる。
川の向こう。ビル。団地。人生のるつぼ。
 
 
わたしはここを越えたいのか。
わたしはなにを越えたいのか。
 
 
かすかに聞こえる人声と、風の音、このうただけが、わたしの安定。
 
 
 
目をつむる。
 
 
 
つむったときだけ見える世界。
そここそが、
そこだけが、
わたしの心地のよい居場所。
呼んでいる。呼ばれている。
わたしは「そこ」に、たどり着かなくてはならない。
 
まっててね。
すぐに、必ず、見つけるからね。
 
 
わたしのためのわたし。
わたしのためだけのあなた。
 


一歩の、勇気。


- 3 -
気持ちのよい、漂える場所。
みずにうかぶ。沈み込む。身をゆだねる。ゆれる。ゆれる。
世界中、宇宙中、この世で一番あたたかい場所。
やさしい愛に満ち満ちた場所。

あぁ、これが愛。ここが、愛。

わたしが「ここ」を選んできた。
つねに、「ここ」を、選んできた。
あなたに出会うため、あなたを愛するために。

あぁ、わたし、うまれる前から包まれていた。
そんなことにも気づかなかった。



今日もベンチに座っていた。
ただただ、待っていた。
「その時」が、くることを。



わたしは、特別だと思っていた。
この世界は、もっと劇的だと、そうあるべきと思っていた。


恋をして、
恋をやめ、
恋のフリをして、
恋と別れる。


フリをする。
うそをつく。
それがわたしを苦しめる。
そんなことには気づいているのに。


真実。真実がすべて。
ただ、ここにある真実。
深呼吸をして、空を見上げる。



今日も、空は、青い。



それにさえ気がつけたなら、今日も、気づくことができたなら、
それがシアワセだとわかるだろう。


今日も、生きよう。
いただきすぎている愛を、放出するために、今日も、生きよう。
昨日でも、明日でもなく、今日。
過去でも、未来でもなく、今。


十分すぎるほどに熟成された愛は、
ここから、わたしから、
多く、多く、遠く、遠くに、届くだろう。



あなたの中に、わたしがいるの。
わたしの中に、あなたがいるの。
あなたが消えたらわたしの一部も消えてしまう。
わたしの中ではあなたの種が、育っているの。
その子が欲しい。
その子と出会いたい。




「わたしの  すべては  ここにある。」




わたしは明日、
あなたがわたしを産んだ歳になります。






- epilogue -
いつまでもなにかの保護下であることから抜け出したくて仕方がなかったのに、なにからも守られていないと感じてしまった時の、疎外感。

母親の子宮の中という、狭い空間だけが、わたしの世界だった。そこが、わたしのすべてだった。

この世に解き放たれた時、
それは解放だったのか
見捨てられたのか
若しくは自ら逃げ出したのか
とにかくわたしはこの世に出てくることを選んだ。

そう、わたしが、選んだ。

今、ここは、誰かの(、何かの)、子宮の中。

もう一度、産まれよう。






Photo:七咲友梨 / Make:長谷川和美

December, 2014